
22.4 動物実験による心理的、生化学的、生理学的変化の計測
−ニホンザルを用いた動揺暴露・脳波測定実験の手続きと成果−
1)目的
乗り物酔いに関する生理的メカニズムの解明に役立てるため、人と同じ霊長類であるニホンザルを用い、動揺暴露実験を行い、統制静止状態と暴露中の脳波を測定し、脳波反応を分析する。
現段階における本実験の目的は、これまで当該研究分野において技術的に極めて困難とされてきた無拘束下におけるサルの脳波を測定するため、サル用ヘルメットを開発し、テレメーター誘導によって脳波を測定し、人と同じ装置における暴露実験を可能ならしめることである。
2)方法
被験体:動物種名:ニホンザル(Macasa fuscata fuscata)
個体名:F89Ak(メス)
出生年月日:1989年6月9日(本暴露実験時7歳7月齢:成体)
出生場所:大阪大学人間科学部附属実験施設内
本実験期間中における飼育状況:個別ケージにて単独飼育
他実験の経歴:一般的な学習心理実験
3)脳波測定電極固定のためのサル用ヘルメットの開発
従来、ニホンザルを初めとして、霊長類を被験体とした生体生理学的資料の収集の手続きとしては、いわゆる『モンキーチェア』を用いたものが多かった。それは、生体を用いた生理学的資料の収集に多く用いられるイヌ、ネコなどの小動物や、ヤギ、ヒツジなどの中型の有蹄類と違って、霊長類は四肢の使用の柔軟性と手先の器用さのため、頭蓋を含め、体表面に測定機器を装着し、そこから有線によって分析機器を接続することが極めて困難だからである。
霊長類、われわれ人間とその進化的距離がきわめて近く、脳を初めとする多くの生体器官がヒトと類似しているため、ヒトヘの援用が最終的目的とされる多くの医学的、生理学的実験に供されてきた。このため、一般的にサルの手や足による妨害を排除するための手段として、モンキーチェアが用いられてきたのである。
モンキーチェアに固定されたサルは、その目的によって、手足、体幹、頭部、あるいはそのすべての自由を奪われる。この方法により、多くの有用な実験データが収集されてきたことは否定できない。
本研究では、船体動揺による人の脳波変動を、ヒトに近い動物を用いてシミュレートすることが目的であるため、実験に用いるサルの身体を固定せず、自由な状態におくことが要請され、テレメトリーシステムを導入することによって、生体情報を遠隔的に測定することが考案された。そのために必要な手続きとして、頭皮上に張り付けた脳波用電極をサルが触らないようにするためのヘルメットの作製がまず必要であった。
被験体としては、体格やハンドリングのしやすさなどを考慮して、比較的若いメスのニホンザルを用いることとした。ヘルメット作製の第1段階として、被験体のサルの頭部全体を剃毛し、油粘土で頭部の凹型をとり、その型の中にシリコンゴムを流し込んで固め、凸型を作製し、これを原型とした。
第2段階として、原型に沿って銅線を用いたワイヤーフレームを作製し、これを基にしてFRP樹脂を用いてヘルメットを作製した、ヘルメットの形状は、人の2輪車乗用のものに近い形状とし、前
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